法務省|法務大臣閣議後記者会見の概要

令和5年3月7日(火)

 今朝の閣議におきまして、法務省案件として、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」いわゆる「入管法改正法案」等、3つの法律案が閣議決定されました。
 そのうち、私から「入管法改正案」の閣議決定について、申し上げます。
 現行入管法下で生じている送還忌避・長期収容問題は、早期に解決すべき喫緊の課題であり、他方で、人道上の危機に直面している真に庇護すべき者を確実に保護する制度の整備もまた、重要な課題となっております。
 今回の改正法案は、様々な方策を組み合わせ、入管制度全体を適正に機能させ、保護すべき者を確実に保護しつつ、ルールに違反した者には厳正に対処できる制度とし、こうした現行入管法下の課題を一体的に解決するためのものです。
 今回の改正法案の立案に当たりましては、入管行政を取り巻く情勢にも適切に対応できるものとするだけでなく、旧法案に対する様々な御指摘を真摯に受け止め、修正すべき点は修正するとの方針で検討を重ねてまいりました。
 そのような方針の下、例えば、退去強制手続の対象者は全件収容が原則である現行法の仕組みを抜本的に改めるため、逃亡等のおそれの程度や収容により本人が受ける不利益の程度等を考慮して、監理措置か収容かを選択する仕組みとします。収容後にその適否を見直す仕組みが存在していない現行法を改め、収容した場合であっても、3か月ごとに収容の要否を見直して、不必要な収容や収容の長期化を防止する仕組みとしております。御案内の名古屋事案を踏まえまして、体調不良者の健康状態を的確に把握して仮放免の判断を行う必要があると考え、健康上の理由による仮放免請求の判断は、医師の意見を聴くなど、健康状態に十分配慮して行うこととしております。こういった点、旧法案について修正すべき点を修正し、今回の改正法案としたものです。
 今回の改正法案は、我が国に入国・在留する全ての外国人が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見をなくし、日本人と外国人とが互いに信頼し、人権を尊重する共生社会の実現のためにも重要であると考えております。
 国会において十分に御審議いただき、速やかに成立させていただけるよう、努力してまいりたいと考えております。

入管法改正法案に関する質疑について

【記者】
 入管法の改正案について伺います。廃案となった2年前の旧法案の骨格が維持されることになりましたが、送還停止効の制限などは、国際人権基準を満たさないなどとして、これまでも国内外から批判を招いてきたかと思います。今、冒頭でも御発言がありましたが、依然批判が残る中での法案の提出となる見込みですけれども、その点について、大臣の受け止めをお願いします。

【大臣】
 まず、先ほど申し上げましたが、今回の改正法案は、現行入管法下の課題を一体的に解決することに加えて、入管行政を取り巻く情勢にも適切に対応できるものとし、旧法案に対する様々な御指摘を真摯に受け止め、修正すべき点は修正するということで対応したものです。
 特に、名古屋局における被収容者死亡事案の発生などを受け、監理措置や仮放免といった収容に関する制度については、より適切な運用を可能とすべく、制度的な手当てを行う必要を強く感じながら、大きく修正を行ったところです。
 旧法案に対しましては、国内外から、様々な御指摘・御意見を頂いたということは、もちろん承知しております。
 もっとも、我が国が締結しています人権諸条約が定める義務を誠実に履行してきておりまして、我が国の入管制度がそれらに違反するものではないと考えています。
 その上で、今回の入管法改正法案は、旧法案に対する国際機関などからの様々な御指摘・御意見の趣旨も踏まえて立案したものです。
 いずれにしましても、修正内容を含めた入管法改正法案の内容、必要性について幅広く御理解いだだけるよう、必要な説明を尽くしていきたいと考えています。

【記者】
 入管法の関連でお尋ねします。先ほどからお話が出ていますけれども、前回のおととしの法案から修正点があったと思いますが、おととしの法案から変えられた理由についてお尋ねします。

【大臣】
 せっかくの御質問ですので、少し丁寧にお話ししたいと思います。先ほども申し上げました今回の改正法案は、現行法下の課題を一体的に解決し、入管行政を取り巻く情勢にも適切に対応できるだけでなく、旧法案に対する様々な御指摘を真摯に受け止めて、修正すべき点は修正したということです。
 繰り返しになりますが、特に、名古屋局における被収容者死亡事案の発生等を受けまして、監理措置や仮放免といった収容に関する制度については、より適切な運用を可能とすべく制度的な手当てを行う必要があると考えたことから、大きく修正を行うこととしました。
 具体的にお話ししますと、まず、今回の法案では、必要のない収容を防止するために、全件収容が原則となっている現行法を抜本的に改めまして、個別事案ごとに、監理措置か収容かを適切に選択するということとしております。そして、その選択に当たりましては、逃亡等のおそれの程度のみではなくて、収容により本人が受ける不利益の程度も考慮するということを法律上明記することとしました。旧法案では、こうした判断枠組みが必ずしも法律上明確でなかったので、今回の改正法案では、あえてこれを法律上明記することとしました。
 次に、今回の法案では、被収容者について、3か月ごとに収容の要否を必要的に見直し、収容が必要ない者については、監理措置に移行することとしました。これは、収容の長期化を防止するために新たに設けるものです。
 監理措置については、ほかにも、旧法案に対し、監理人の負担が重く、監理人のなり手が確保できない旨の御指摘を頂いておりましたことから、監理人の定期的な届出義務を削除し、主任審査官から求められたときだけ報告すれば足りることとしました。同様に、監理人の負担を軽減するため、入管庁が、監理人に対する必要な情報の提供、助言等の援助を行うこととしております。旧法案では、監理措置に付される者には、保証金の納付が必須であったところを、逃亡等の防止に必要な場合に限って保証金を納付させることとするなど、適切な運用が可能となるように、必要な修正を行っております。
 また、仮放免制度につきましては、健康上の理由による仮放免請求の判断をするに当たりまして、医師の意見を聴くなど、健康状態に十分配慮することを法律上明記することとしました。これは、名古屋事案におきまして、健康状態が悪化したウィシュマさんが収容施設内で亡くなったことから、同様の事案の再発防止のために、健康状態を的確に把握して仮放免の判断を行う必要があると考え、新たに明記することとしております。
 そのほかにも、今回の改正法案では、送還停止効の例外規定の内容などの周知、教示に関する附則を設けることとしております。これは、改正法下では、3回目以降の難民等認定申請者につきましては、「相当の理由がある資料」を提出しない限り、送還停止効の例外となることから、万が一にも、本来保護されるべき者が送還されることがないように、その提出機会を確保するために設けたものです。
 以上、多少詳しく説明差し上げましたが、法務省として、今回の改正法案は、修正すべき点を修正して再提出するものでありますので、国民の皆様に幅広く御理解いただけるように、必要な説明を尽くしてまいりたいと考えているところです。

【記者】
 先ほどの御発言の中で、指摘を踏まえて大きく修正を行ったとお話がありました。ただ一方で、前回から批判が一番強かった送還停止効の例外についてはそのまま維持されているかと思うのですが、改めて、送還停止効の例外規定がなぜ必要かお聞かせください。

【大臣】
 まず、送還忌避者の中には、理由や回数を問わず一律に送還停止効が生じることに着目して、送還を回避するための手段として難民認定申請を誤用、濫用する者が、残念ながら多数存在しています。
 送還停止効は、難民認定申請中の方の送還を停止することにより、その法的地位の安定を図るために設けられたものです。
 そのため、難民認定申請中でも、法的地位の安定を図る必要がない者を、送還停止効の例外とすることは許容され得るということであったわけで、そこで、迅速かつ適切な送還と手続保障のバランスを取る観点から、難民認定申請中であっても、法的地位の安定を図る必要がない一定の類型であります、例えば、3回目以降の難民等認定申請者ですとか、無期若しくは3年以上の拘禁刑の実刑判決を受けた者ですとか、外国人テロリスト等について、送還停止効の例外としたわけです。
 もっとも、3回目以降の難民等認定申請者については、申請に際し、難民等の認定を行うべき「相当の理由がある資料」を提出すれば、なお送還が停止することとして、保護すべき者は確実に保護できる仕組みにしています。
 対象者にとりまして、「相当の理由がある資料」の提出機会を十分確保されることが重要ですので、今回の改正法案では、制度の周知、教示を行う旨の規定を設ける修正を行い、その立場に十分配慮することにしています。
 なお、主要国におきましては、難民認定申請について、再申請に制限を設けている上、再申請を認める場合でも、送還停止効に例外を設けています。例えば、オーストラリアは、原則、再度の申請を認めていません。ドイツ、イギリスも、新たな資料の提出等がある場合に限って、再申請を認めているということです。そういったことも踏まえながら、考えさせていただきました。

【記者】
 入管法改正案で、ウィシュマさん事案の報告書が出て、様々な反省点があったと思いますけれども、今回の改正案は、その反省点を踏まえた、対応したものになっているか、また、同じような死亡事案、ウィシュマさんのような死亡事案を防げる改正案の内容になっているかどうか、そのあたりの大臣の見解を伺います。

【大臣】
 御指摘の名古屋事案につきましては、その調査報告書におきまして、医療的対応のための体制整備や運用が不十分であった、また、被収容者の健康状態を的確に把握し、柔軟に仮放免を可能とすべきであった、職員の人権意識に問題があった、そういった問題点等が指摘されているわけです。
 入管庁では、調査報告書に示された改善策を中心に、組織・業務改革に取り組んできたところ、こうした取組により、常勤医師の確保等の医療体制の強化や職員の意識改革の促進など、改革の効果が着実に現れていると思います。
 今回の改正法案には、例えば、入管収容施設において常勤医師を確保する上で支障となっております民間医療機関と比較した待遇面での格差を是正するために、現行法における常勤医師の兼業要件を緩和して、柔軟な兼業を可能とするですとか、全件収容主義と批判されている現行法を改めまして、監理措置を創設して、収容しないで退去強制手続を進めることができる仕組みとした上で、収容した場合であっても、3か月ごとに収容の要否を見直して不必要な収容を回避するですとか、体調不良者の健康状態を的確に把握して、柔軟な仮放免判断を可能とするため、健康上の理由での仮放免請求について、医師の意見を聴くなど健康状態に十分配慮して仮放免判断に努めるなどの施策を盛り込んでいるところです。
 現在入管庁が取り組んでいる組織・業務改革に加え、今回の改正法案により、名古屋事案と同様の事案を防止することができると考えております。(以上)



出典:法務省 Webサイト
https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00393.html